御曹司さまの言いなりなんてっ!
「お前、あの頃とほとんど変わっていないからな」
「それ、褒め言葉ですか? それとも成長してないって仰ってるんですか?」
「想像に任せる」
「あの後、ずいぶん探したんですよ? お礼が言いたくて」
「色々と大変だったからな。ずっと俺を育ててくれた祖父母が亡くなって」
「…………」
「すぐに今の家族に引き取られた。もう他に、俺の面倒を見てくれるような親戚なんていなかったから」
……そして。
そして、あの家族に囲まれる針のムシロのような生活が始まった。
まだ高校生だった部長にとって、それはどんなに辛い毎日だったろうか。
「楽しかった頃の最後の記憶なんだよ。俺にとって、あの時のお前は」
そう言って微笑む部長の胸中を思い、私は口の中の白米を無理に飲み込む。
彼が私との出来事を楽しい記憶として覚えていてくれたことが、嬉しくもあり、切なくもあり。
やるせない痛みが、しんみりと私の心を覆った。
それから私達は、とりとめのない会話をしながら食事を続けた。
田舎を思い起こさせる素朴な味付けが、郷愁を誘う。
私が自分のおばあちゃんのこと懐かしんでいるように、部長もきっと、亡くなった祖父母のことを思っているんだろう。
かつて自分のことを一番に愛してくれた、かけがえのない大切な温かい人との記憶を。