御曹司さまの言いなりなんてっ!

「瑞穂? 朝っぱらから何なのよ?」

『だからいま会社に来てるんだけど、中に入れないんだって!』

「……会社に入れない? ああ、今日は瑞穂がカギ当番だったっけ?」


 つまりカギを自宅に忘れちゃったってことなのね?

 別にそんなに慌てることでもないのに、瑞穂ったらそそっかしいんだから。

 そこが彼女の欠点でもあり、愛すべき長所でもあるんだけどね。

 私は笑いながら、必要以上に慌てふためいている瑞穂を落ち着かせようとした。


「大丈夫よ、多分もうすぐ川口課長が着くだろうから。課長はいつも必ずスペアのカギを持ってる……」

『じゃなくて! 会社の玄関にチェーンがぐるぐる巻かれてて、中に一歩も入れないのよ!』


 さっきよりも1オクターブ高まった瑞穂の声が、切実に私の鼓膜に訴える。

 私はまた顔をしかめながらも、彼女のかなり狼狽している様子と、その言葉の内容にさすがに疑問を覚えた。


 チェーンが巻かれてるってどういうこと? 

 そんなこと今まで一度もなかったのに。新しい防犯対策かな?

 それならそうと事前に、全社員にきちんと通達してくれないと。

 本当にうちの3代目ボンボン社長ときたら、気は良い人なんだけど、そういう昼行燈なところがあって困っちゃう。


 ところが、そんなのん気なあたしの横っ面を張り飛ばすような爆弾宣言が聞こえてきた。


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