御曹司さまの言いなりなんてっ!

「ごちそうさまでした」

「残りは冷蔵庫に入れて、明日また食べよう」


 食事を終えた私達はキッチンの冷蔵庫にタッパーを入れて、自分達の部屋へと向かった。

 部屋に近づくにつれ、なぜか会話は徐々に途切れがちになっていく。

 他に誰もいない廊下はシンと静まり返り、その静けさが逆に落ち着かない。

 無言で隣を歩く背の高い彼の存在が、誤魔化しようがないほど私にとって大きく感じられる。

 まるで、この世界に存在する人間は私達ふたりだけのように。

 神の創った楽園に住む、アダムとイヴのように。


「浴場はまだ使えないから、部屋のバスルームを使え」

「わかりました」


 私の部屋の前で立ち止まり、私達は向かい合う。


「あまり長く湯に当たるなよ? 回復したばかりなんだから」

「大丈夫です」

「何かあったら、すぐ俺を呼べよ? 絶対に遠慮はするな」

「はい。今日はご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした」

「遠山」

「はい?」

「お前、俺のことが好きだろう?」

「…………」


 心臓が、破裂するかと思った。

 激しい動悸と共に急激に顔に血が集中して、一瞬、クラリと意識を失いそうになる。

 あまりにも唐突で無遠慮な質問に心臓をえぐられ、衝撃に耐えるのが精一杯で目を逸らす余裕もない。

 部長は瞬きもせずに、縫い付けるような視線で私を捕えている。

 この問いから逃げることは許さない、とでも言いたげに。
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