御曹司さまの言いなりなんてっ!

「…………」

 そっと唇を解放されて、しばらくの間は無言だった。

 激しい動悸に翻弄されて、自分を保っているだけで精一杯。

 それでも私は荒い息を宥めながら、許可もなく唇を奪った相手へ当然の権利を主張する。


「どうして、こんなことするんですか……?」


 明確な答えが欲しい。

 この行為を裏付ける、彼の私への気持ちを、彼自身の口から聞きたい。

 なのに彼は……


「お前が望んだんだろ? ファーストキスを返せって」


 あくまでも自分の本心は明かそうとせず、私に再び問いかける。

「俺のことが好きなんだろう? 正直に好きだと言えよ」

 そんな風に誘導して私の方から負けを認めさせたがり、私の心を手中に収めようとする。

 悔しい。こんなズルい男の言いなりになんて、誰がなるものか。

 答えない。絶対に好きだなんて言ってやらない。

 たとえ既に私の本心が、彼に伝わってしまっているのだとしても。


 挑むように見上げて意地を張る私から、自分の望む言葉を引き出せない彼の目に苛立ちが見える。

 闘争心に火がついたのか、彼は私をドアに押し付けて、また強引にキスをした。

 今度は、啄ばむだけでは済まないキスを。
< 162 / 254 >

この作品をシェア

pagetop