御曹司さまの言いなりなんてっ!
「…………」
そっと唇を解放されて、しばらくの間は無言だった。
激しい動悸に翻弄されて、自分を保っているだけで精一杯。
それでも私は荒い息を宥めながら、許可もなく唇を奪った相手へ当然の権利を主張する。
「どうして、こんなことするんですか……?」
明確な答えが欲しい。
この行為を裏付ける、彼の私への気持ちを、彼自身の口から聞きたい。
なのに彼は……
「お前が望んだんだろ? ファーストキスを返せって」
あくまでも自分の本心は明かそうとせず、私に再び問いかける。
「俺のことが好きなんだろう? 正直に好きだと言えよ」
そんな風に誘導して私の方から負けを認めさせたがり、私の心を手中に収めようとする。
悔しい。こんなズルい男の言いなりになんて、誰がなるものか。
答えない。絶対に好きだなんて言ってやらない。
たとえ既に私の本心が、彼に伝わってしまっているのだとしても。
挑むように見上げて意地を張る私から、自分の望む言葉を引き出せない彼の目に苛立ちが見える。
闘争心に火がついたのか、彼は私をドアに押し付けて、また強引にキスをした。
今度は、啄ばむだけでは済まないキスを。