御曹司さまの言いなりなんてっ!
ようやく唇が解放されて、名残惜しそうな彼が、私の上唇を食むように軽く吸った。
そして荒い息を吐きながら、お互いの額を擦り合わせる。
目を閉じ、頬を染め、抱き合いながら、私達は乱れた呼吸を整えた。
「どうして……」
私は彼の広い胸にピタリともたれ掛り、彼の体温を感じながら、彼の波打つような心臓の音を聞く。
「こんなキスをしておいて、どうして『好き』って言ってくれないの……?」
「お前が、俺に『好き』って言わないから」
そんなイジワルな言葉に、私はグズる子供のように彼の胸にしがみ付いた。
彼は私を宥めるように優しく抱きしめ、私の耳朶を唇で甘く弄びながら、熱い息を吹きかける。
「なんで、『好き』って言わないんだよ……」
コントロールが効かないほど強い感覚が体を駆け抜け、思わず切ない息を漏らす。
キスの音と感触を何度も耳朶に感じ、私は眉を寄せて背を逸らした。
なんで……?
そんなの、分かり切っている。それは私達が大人になったから。
私達がまだ子ども同士だったなら、何も考えずにお互いの気持ちをボールのようにぶつけ合っていただろう。
でも投げられたボールは、強ければ強いほど、いつも人の心を傷つける。
だからそれを恐れる大人は、自分の身を守ることや駆け引きを覚えるの。
がむしゃらに気持ちをぶつけ合うには……私達は……小賢しくなり過ぎている……。