御曹司さまの言いなりなんてっ!

 私の髪を撫でながら、彼は大人の顔で微笑んでくれた。

 そんな風に理解を示してくれる彼の本質を、惚れ直す気持ちが半分。

 逆に、本音はもっと強引に押して欲しいのにと望む気持ちが半分。

 恋とは、かくも複雑で厄介な感情だと思う。
 

「お前の髪に、このままずっと触れていたい。でもそうしたら抑えが効かなくなる」


 私の髪に指を絡ませながら、彼は言ってくれた。


「さあ、もう部屋に入れ。ちゃんとカギをかけろよ? 俺、正直言って自分の理性にあまり自信がもてないからな」

「はい。おやすみなさい」


 理性に自信が持てないのは、私も同じ。

 いつまでも部長とこうしていたいけど、私は黙って部屋のドアを開け、中に入ってドアをゆっくりと閉めた。

 ……と、完全に閉まる直前、いきなり部長がこじ開けるように力任せにドアを開く。

 驚く私に向かって彼は身を乗り出し、まるで振り絞るような切れ切れの声と、切なさ極まる表情で訴えた。


「なあ、やっぱりどうしても、だめか?」


 私の胸に、言葉にならない衝動が走る。

 矢も楯もたまらず甘えた声を出しながら、私は彼の背中に両腕を回して思い切り抱き付いた。

 ギュウギュウと力一杯に抱きしめて、自分の中で暴れ回る破裂しそうな感情を必死に抑える。


「お願い……困らせないで……」

「ごめん。俺、年上のくせにまるでガキみたいだな」


 私の髪に顔をうずめる彼の声が、また私の背中に甘い痺れを生む。

 私達は抱き合い、何度も切ない息を吐いた。
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