御曹司さまの言いなりなんてっ!
始まりと、その裏側
次の日、目覚めた私は慌ててベッドから飛び起き、真っ先にバスルームに飛び込んだ。
まずい! ウッカリあのまま化粧も落とさず眠ってしまった!
こんなゴワゴワなお肌を部長に見せられない! 幻滅されてしまう!
丁寧にクレンジングしてシャワーを浴び、熱い湯が頭のてっぺんから流れ落ちる心地良さを全身に感じながら、ふと、昨夜のことを思い出した。
部長、ほんとに冷水シャワーを浴びたのかしら。聞いてみようかな?
そしたら彼、どんな顔をするかしら?
そんなことを考えてニヤける私の胸は、蝶が舞うように軽やかに浮き立っている。
これから私達が顔を合わせることがとても照れくさくて、でも楽しみで、ドキドキするのを止められない。
手早くシャワーを終えてバスタオルを体に巻き、髪を乾かす私の心は、一刻も早く部長に会いたくて逸っていた。
身支度を整え、少々気合いが入り過ぎかもしれないメイクを終え、昨夜部長と一緒に食事をした場所へ向かう。
枯山水の中庭が見える応接コーナーの横に、スーツ姿で立つ部長の姿が目に飛び込んできた途端、私の心臓が恐ろしいほどの勢いで騒ぎ出した。
ついさっきまであんなにワクワクしてたのに、今は緊張で息が止まってしまいそうだ。
こんな間柄になってしまって、彼は一番にどんな言葉を私にかけてくれるんだろう。
「部長、おはようございます」
努めて冷静さを装いながら挨拶をする私に、彼は振り向き、答えてくれた。
「ああ、おはよう。体調はどうだ? よく眠れたか?」
……いつもと全く変化のない口調と態度で。