御曹司さまの言いなりなんてっ!

『玄関に張り紙がしてあるの! 会社が破産したから、この建物は差し押さえたって! だから立ち入り禁止って!』

「…………は?」

『だから、破産したって! この会社が破産したって、あたしの目の前の紙にしっかり書いてあるのよ!』

「……はああぁぁーーーー!?」


 限界まで高まった瑞穂の声に負けず劣らず、私は大声で叫んだ。

 破産!? 破産ってどういうこと!? 会社が潰れたってこと!?

 そんな、とても信じられない! だって昨日まで普通に営業してたじゃないの!

 だから私、今日もいつも通り出勤するつもりでこうしてメイクの準備してるのよ!?

 なのに会社が潰れてるなんて、瑞穂がふざけて冗談を言ってるのに決まってる!


『どうしよう成実! どうすればいいの!? 助けて!』


 瑞穂の本気の泣きベソ声が聞こえてきて、私もスマホを強く握りしめながら泣きそうになった。

 嘘じゃ……ないんだ。

 本当に会社、潰れちゃったんだ。どうしよう……。


 独り呆然と佇む室内のテレビから、お天気キャスターの明るい声が響いてくる。

『今日も暑い一日になりそうです。皆さん、充分に注意してお過ごし下さい』


 注意したって、どうにもならない。

 突発事故は向こうから勝手に突進してくるのよ。

 自衛策なんて無いに等しい。嵐のように訪れる事件や事故は、成すすべも無く受け入れるしかないんだわ。


 そう思いながら青ざめる私の手から、購入したばかりの夏用ファンデーションが、床に滑り落ちる音がした……。


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