御曹司さまの言いなりなんてっ!
「あの、部長、それはどういうことでしょうか?」
「林檎園の相馬さんと、婦人会の小林さんに連絡しておいた。お前を今日一日、たっぷりこき使ってくれってな」
「え? こ、こき使う?」
「彼らは地元民の間では中心人物だ。今後の付き合いのために、しっかり顔を売ってこい」
このプロジェクトには、地元の人達との深い信頼関係が必須。
それは私自身が言った言葉だ。
私が責任者のひとりで、部長のサポート役となれば、今後あの人達とは密接にかかわっていかなければならない。
だから部長の指示は、至極、真っ当なんだけど。
玄関で靴を履いている部長の背中を見ながら、私の頭にこんな黒い考えがよぎった。
この人、ひょっとして私を遠ざけようとしているんじゃないかしら。
もしかしたら私のことを、都合のいい女にするつもりだったのかも?
なのに私が拒否したから、思惑が外れて面倒になったとか?
付き纏われたら迷惑だから、そうならないように今から牽制しておくつもりなんじゃないかしら。
そうよ。だからこんなに素っ気ない態度なんじゃないの?
思い始めると、どんどんそれが正解のように思えてきて、惨憺たる気分になってしまった。
今朝の浮かれた蝶々みたいな気分は跡形もなく消滅してしまう。
どうしよう。私、遊ばれちゃったのかも。
ほら、だから上司と恋愛関係なんてなるもんじゃな……。
―― グイッ
いきなり頭の後ろに手を回され、部長に素早く唇を奪われた私は目を丸くした。