御曹司さまの言いなりなんてっ!
悔恨と、からくり
私が乗っ取った。私が追い出した。
会長が話すその言葉は、まるで神に告白する懺悔のように聞こえる。
「成実ちゃんが泊まったあの古民家はね、実はタキの実家なんだよ。あちこち手を加えたから様変わりしてしまったけれど」
「……!? あんな立派な日本家屋が、おばあちゃんの実家!?」
「そう。それぐらい羽振りの良かったあの家に、私は家族として迎えてもらった恩がある。だから昨日、あの家にだけは泊まる気になれなくて逃げ出した」
「…………」
「あの家に、とても顔向けができなかったから」
「いったい……なにが、あったんですか?」
思わず問い詰める私に、罪を告白する罪人のように会長は語り始めた。
何十年間も胸に秘めていたであろう、長い後悔の念を。
「……タキはね、そりゃあ優しくて思いやりのある素晴らしい女性だったよ。住み込みで必死になって働く私に、いつも大層親切にしてくれてね」
そのうちに、私に好意を寄せてくれるようになった。
そこで私の日頃の働きぶりを気に入ってくれていたタキの父親が、縁談を持ちかけてきたんだ。
たったひとり生き残った可愛い娘の初恋を、なんとか叶えてやりたい親心もあったんだろう。
私は降って湧いたような幸運に大喜びで、一も二もなく承諾し、早速あの家で身内だけの仮祝言を済ませた。
未入籍であっても、周囲からはもうそれで夫婦として認められていた。