御曹司さまの言いなりなんてっ！

　事情を知った田舎の母は、これ幸いに連日の電話攻撃で私に帰郷を促すし。


『そら、ごらん！　大学卒業したらぜったい実家に戻るって約束、反故にするからこんなバチがあたったんだよ！』

「そんなこと、今さら言ってもしょうがないでしょ？」

『お母さんとお父さんの言うことを聞かないからこうなるのよ！　あんたは子どもの頃から頑固なところがあって……！』


　幼稚園の時に親と手を繋ぐのを嫌がって、走って転んで骨折しただの。

　小学校の時に風邪をひいているのにプールに行って、危うく肺炎になりかけただの。

　本人も覚えていないような遠い過去をほじくり返して、母がくどくど続けるお説教にイライラする。

　この後の展開も読めて、あたしはウンザリした。


『成実、もうこっちに帰ってきなさい』

「いやです」

『またあんたは！　親のいう事を聞かなくて痛い目にあったんでしょ！？』

「別にあたしが実家に戻らないからって理由で、うちの会社が破産したわけじゃないわよ」

『お母さんの言うこと聞きなさい！　戻ってきて、こっちで結婚しなさい！』


　出た。必殺、『結婚しなさい』。

　いとこのユリちゃんがついに去年結婚したとか、さやかちゃんが二人目を妊娠したとか。

　親戚の女の子たちと私の現状を比較して、まるで私が負け組街道を驀進してるみたいにチクチクと攻撃してくる。