御曹司さまの言いなりなんてっ!
たったひとりのイヴ
自室のテレビ台の端っこに置いてある小さな時計を確認して、私は溜め息をついた。
あっという間にもうお昼か。なんか最近、タイムスリップしてるんじゃないかってくらい時間の流れを早く感じる。
別に忙しい日々を送っているわけでもないのに、時間の感覚が狂ってるのかな?
三ツ杉村から戻ってずっと、何もしない自堕落な日々を過ごしているからなあ。
今日も今日とて、扇風機の風を独占しながらカーペットの上に寝転がってダラダラしているだけ。
あー、この風だって電気で生み出されているのよ。つまり、お金がかかってる。
一刻も早く次の仕事を探さなきゃならないのに、さすがにすぐには就活を始める気にもなれなくて。
あの料亭での出来事は私の中でしっかりトラウマになっているらしく、フライパンにこびり付いた焼け焦げみたいに、頭の隅っこから離れない。
失恋は時が癒してくれるっていうけれど、時間の感覚が狂っているせいなのか癒されているという自覚も無いし。
癒されるどころか、悲しみは波に侵食される砂のように徐々に深まっていくばかり。
だって事あるごとに思い出すのは、部長の姿。
入社試験の日に、社内の廊下を必死に走って追いかけた大きな背中。
彼の見惚れるほど整った顔を、私はいつも心持ち首を反らして見上げていた。