御曹司さまの言いなりなんてっ!

「直哉さんも先日、お見舞いにいらしてました」

「え? 部長が?」

「はい。そして会長と、あなたの事を色々と話し合っておいででした」

「…………!」


 私のことを部長と会長が話していた!?

「い、いったいどんなことを話していたんですか?」

「はい、実はですね……」

 さっそく説明しようとする田川さんを、牧村さんが制した。


「立ち話もなんですから、先ずはおふたりとも座りませんか? 私は何か飲み物を買ってきます」

「あ、私も一緒に行きます」


 牧村さんと瑞穂がそう言って、私と田川さんを残して特別病棟から立ち去っていく。

 自販機ならここにもあるのに、きっと気をつかってくれたんだ。

 そのことに感謝しつつ、私と田川さんはイスに腰を掛けてじっくり話し始めた。


「昔から会長は苦しんでおられましたよ。心の奥で、ずっとタキさんのことを想っておられましたから」

「おばあちゃんのことを愛していたんですか?」

「罪悪感なのか、愛情なのか。私にはそこまでは分かりかねます。ただ、私が気付くほどですから当然……」

「会長の奥様も気付いていた?」

「ですから奥様も、大変お苦しみのご様子でした。奥様は会長を愛しておられましたが、とにかく気位の高いお方で」


 お金持ちのお嬢さんの麻疹のような感情。

 会長はそう思っていたけれど、そうじゃ無かった?

 本当に夫を愛していたのだとしたら、夫の心に住み続ける女の存在は確かに辛いだろう。
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