御曹司さまの言いなりなんてっ!

 そして迎えた試験当日。

 相も変らぬ真夏の熱さの中、雑踏に紛れながら大きなビルを見上げた私は、そこで一気に怖気づいた。

 ……デカい。確かに懐も大きいみたいだけど、建物自体がまずデカい。

 窓の数なんて数える気にもならないほどの、大きくて近代的なビルが威圧感たっぷりにそびえ建っている。


 この『一之瀬商事株式会社』は、有名な総合商社だ。

 食糧、鉱物、繊維、運輸、インフラ、コンサルタント等々。

 この世の食べられる物から食べられない物すべてを手広く扱い、ことごとく業績を伸ばし続けている。

 うちの憎っくき三代目ボンボンも、やたらめったら色んな商品に手を広げた挙句に、ことごとく手詰まりになったみたいだけど。

 同じことをしながら成功する人と、そうでない人の決定的な違いって何なのかしらね。


 気を取り直して自動ドアを通り抜けてエントランスに一歩踏み込んだ私は、そこでまたウッと怯んでしまった。

 ホテルか、ここは。

 シックなモノトーンを基調とした、見渡すほど広々とした空間は、落ち着きとグレード感に満ちている。

 でもアクリル板やガラスのインテリアをあちこちに配置してるから、クリアな印象が強くて重々しさが無い。

 応接コーナーやパンフレット棚は、さりげない高級感漂う木材を使用していて、これがまたモノトーンな空間に絶妙にマッチしていた。

 センスいい……。さすが大手。

 流線型のカウンターに座っている美人受付嬢に説明を受けた私は、エレベーターで試験会場へと向かった。
< 23 / 254 >

この作品をシェア

pagetop