御曹司さまの言いなりなんてっ!

「で、考えたんです。氏神様へ御神輿を戻す前に、最後にここへ寄ってもらおうって」

「…………」

「この古民家で、大人も子供も揃って楽しい時間を過ごして、先祖伝来の土地やそこに住み続けた人に対して敬意を払う時間を共有してもらうんですよ」
 

 そうして地元への愛着を深めていく。

 地域振興は自分達が住む場所への愛情がなければ、どうやったって成り立たないもの。

 これはほんの小さな、きっかけだと思う。

 でも取るに足らない些細な積み重ねを続ける事で、人の心には確かな何かが芽生えるんだと思う。

 そうやって大切な家族を築いていくみたいに。


「たぶん部長も同じことを実行するつもりだったんでしょう? 違いますか?」

「予算は?」


 私の話を黙って聞いていた部長が、そこで口を挟んだ。


「予算はどこから捻り出したんだ?」

「あ、それなら大丈夫です。専務を脅迫しましたから」

「はあ!? 専務を脅迫したあ!?」


 素っ頓狂な声を上げた部長に向かい、私はニッコリ微笑んだ。


「はい、がっつり脅しました。昔の会長の件や、今回の癒着の件の一切合切を暴露されたくなかったら金を出せって」


 そう。私は制止しようとする秘書を突き飛ばす勢いで専務室に飛び込み、専務を頭から怒鳴りつけた。


『あんたは何がしたいわけ!? 何があんたの望みなのよ!?』


 退職しちゃった私はもう、無双。

 ツバを飛ばしながら機関銃のように捲し立てる私を、デスクに座った専務は身動きもせずにキョトンと眺めていた。
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