御曹司さまの言いなりなんてっ!

 指示された階でエレベーターを降り、絨毯を踏みしめながら『試験会場は、こちら』の立て札に従って進んでいく。

 途中、すれ違う社員さんたち全員が、すごくエリートっぽく見えて萎縮してしまった。

 エントランスの印象とは一変して、オフィス部分は機能的な印象のデザイン。

 レイアウトはそんなに入り組んでいるわけじゃないけど、建物自体がすごく広いから迷いそうで不安になる。

 なんとか『中会議室』と書かれたプレートの部屋の前までたどり着き、私はふぅっと安堵の溜め息をついた。


 オズオズと扉を押し開けると、濃いグレーのカーペットの上にズラッと並べられた、細長いテーブルの白さが目に飛び込んできた。

 もうすでに何人も受験者が集まっていて、それぞれの席についている。

 大きな電子ボードの前に座っている、首に社員証をぶら下げた中年の男性社員と目がバチッと合って、私は身を縮こませた。


「成実、こっち」

 私の名を呼ぶ小声がして、そっちを向くと瑞穂が小さく手招きしている。

 そそくさと足早に近づき、あたしは瑞穂の隣の席に座った。

 そしてお互いの顔をくっつけるようにしてコソコソと話す。


「結構な人数が来てるね」

「だね。うちの社員だけじゃないみたい」


 会議室の中を見渡せば、ポツポツと見知らぬ顔も混じっている。

 どうやらうちの会社の救済処置のためだけの入社試験、ってわけじゃなさそうだ。

 甘かった。これだけの人数の中で、私が拾い上げてもらえる可能性なんて無いに等しいだろう。

 なんの特技も持たない、ただの一般事務の自分が恨めしい。
 
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