御曹司さまの言いなりなんてっ!

 知恵も持たず、愛し合わず、唯々諾々と永遠に生き長らえる場所。

 それが楽園だなんて私には思えない。

 だったら楽園なんて、地上のどこを探したって無いんだと思う。

 人は、そんなものを望みはしない。


 幸せになることを願って、毎日ちょっとずつ頑張ったり。

 いっぱい泣いたり、大笑いしたり、深く傷つけられたり、心から慰められたり、溢れる希望を持ったり。

 もう二度と立ち上がれないと絶望したり。

 それでもまた、立ち上がったり。

 あえて言うなら、その目まぐるしく逞しい生きざまこそを、楽園と呼ぶのかもしれない。


「その結果、会長がおばあちゃん別れることになったのなら、それも人生かなって思うの」

「カッコつけて言えば、そうかもな。まあ当事者同士にしてみれば、『それも人生』どころじゃ済まないかもしれないが」

「うん。でもおばあちゃんは最期に『幸せな人生だった』って言ってくれたもの」


 会長は、一之瀬商事はおばあちゃんの物だって言ってたけど。

 それは違う。出自はどうあれ、あの会社は会長が死にもの狂いで働いて、育て上げた場所なんだ。

 そしてあの中で、今もたくさんの人々が生き続けている。

 瑞穂も、牧村さんも。

 彼らにとってあの場所は必要で、価値のある大切な場所なんだ。

 それを会長は、自分の手で作り上げた。

 すごいことだと思うの。

 会長はずっと自分を恥じながら生きてきたみたいだったけど、私はやっぱり、素晴らしい人だったと思う。
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