御曹司さまの言いなりなんてっ!
「なあ、成実。俺、今年中にお前の実家に挨拶に行きたいんだ」
「え!? あ、あいさつ!? 挨拶ってなにするつもり!?」
「なにって、だから挨拶だよ。大事なひとり娘が一緒に住んでる男の顔も見たこと無いんじゃ、ご両親だって心配だろ?」
「うわー、うわー、どうしよう!」
「そう心配するな。ちゃんと気に入られてみせるさ」
「直哉、甘く考えてる! うちのお母さんをナメてかかっちゃだめよ!」
「お母さん? 普通、お父さんじゃないのか?」
「お父さんは平気よ全然。問題は、お母さん! あの女傑よ!」
「女傑…………」
「言っとくけど、直哉の継母なんか目じゃないわよ!? 西大后か江青か、エレナ・チャウシェスクかってレベルなんだから!」
「……なんで俺の周りには、そんな女ばっかり集まるんだ?」
直哉がガックリ肩を落として、大きな溜め息をついた。
ああ、これはまたひと悶着おきそうな気がする。
とりあえず笑うしかない私は、直哉を見上げてヘラヘラと笑った。
彼はふうっと息を吐き、それから『やれやれ』といった表情で笑顔を返す。
そして私の髪に、愛しそうに頬ずりした。
「どんなことでも、ドンと来い、だ。一緒に乗り越えよう」
「うん。ずっと一緒にね」
私達は我が家の扉を開け、一緒に中に入る。
今日の一日を終え、愛しい人をこの両腕で抱きしめるために。
そして古民家の窓に、ひとつの小さな明かりが灯った。
【END】