御曹司さまの言いなりなんてっ!

 体全体でアスファルトの感触を感じるなんて、生まれて初めての珍体験に驚きながらも、我に返ったあたしはすぐに起き上がろうとした。

 けれど、体に全く力が入らない。

 無理に体を起こそうと足に力を入れたら、ふくらはぎが派手に痙攣して、顔が盛大に歪んだ。


 い、痛い! 足も痛いけど頭もガンガン痛い!

 それに周りがぐるぐる回転して、目を開けていられない。

 おまけに何だか吐き気もするし。

 ……これって、もしかして熱中症!?


 助けを呼ぼうにも周囲に人影は無いし。

 近所の玄関チャイムを鳴らそうにも、起き上がることができないんだから不可能だし。

 ポケットの中のスマホに手を伸ばそうとしたら、指が痺れてまともに動かなかった。

 どうしよう。本当にこのままじゃ死んでしまうかも!


 夏になれば必ず見聞きする、『熱中症で死亡』のニュースが頭に浮かぶ。

 いきなり自分の身に差し迫った死の危険に、怖くて怖くて頭が真っ白になった。

 余計に心臓が激しく鳴って呼吸が苦しくなって、さらに恐怖が倍増する。 


 どうしよう、どうしよう。怖い。怖い。

 お父さん、お母さん、助けて。あたし死んじゃうよ。

 誰か助けて。お願い助けて。誰か、誰か、誰か……。


「どうした!? しっかりしろ!」


 完全にパニック状態に陥ったあたしの耳に、天からの声が聞こえてきた。

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