御曹司さまの言いなりなんてっ!
床一面が大理石。
複雑で神秘的なマーブル模様が、まるでスケートリンクのような光沢を放っている。
壁紙の織布は雪のように真っ白で、縁に施されている金糸の模様がとても良く映えていた。
応接セットのテーブルとイスは艶やかで重厚な木製品。手の込んだ掘り込み模様がなんとも豪勢だ。
天井からぶら下がっているシャンデリアの、クリスタルとゴールドの絢爛な輝きにも目を奪われてしまう。
ホテルのスイートルームに迷い込んでしまったような錯覚を覚えて、私は目をパチパチさせてしまった。
あまりキョロキョロしてるとお里が知れて恥ずかしいけれど、こんな光景、見回さずにはいられない。
そんな小市民丸出しの私を尻目に、部長はさっさとイスに腰掛け、「よろしく頼む」と言ったきり、素知らぬ顔で出されたコーヒーを飲んでいる。
黒いノースリーブの女性がニコやかにほほ笑みながら
「ではお嬢様、こちらへどうぞ」
と歩きながら私を促した。
手招きされた先には、美しいドレープの緑色のカーテンの向こうに、アンティーク調の鏡や腰掛けが置かれたフィッテングルームが設置されている。
でも私、実は大理石って苦手なの。
あまりにもツヤツヤし過ぎて、滑って転んで頭打ったらどうしよう。とか余計なこと考えちゃうんだもの。
緊張しながらノースリーブの女性に近寄り、心細い思いで彼女の表情を伺った。