御曹司さまの言いなりなんてっ!
「清楚なデザインがお嬢様のお好みだと、一之瀬様からお聞きしました。勝手ながらこちらで数点ご用意させていただきました」
はあ。誰が、何のデザインをお好みですって?
そんなセリフはひと言も言った覚えはないけれど、ここで話をややこしくする勇気も気力もない。
手渡された衣装を手に、私は素直にフィッティングルームへ入った。
ゆっくりとカーテンが閉められて、外界から一応遮断された狭い空間にホッとする。
ああ、なんかもう、豪華な敵城にひとり取り残された捕虜みたいな心境だわ。
「時間が無いんだ。急げ」
やっと一息ついていると、カーテンの向こうから部長の声が聞こえてきた。
はいはいはい。分かってますよ。でも汚したり傷つけたりしたら大変だから、そーっと。そーっと……。
「まだか。早くしろ」
分かってるってば! 少しはこっちの身にもなってよ!
そう心の中で怒鳴り返して、着替えを終えた私は鏡に映った自分の姿を確認した。
ヒザ丈より少し短めの、Aラインのノースリーブドレス。
オフホワイト一色の胸元と裾に、真珠のようなビジューがお揃いで散りばめられている。
これ……高いんだろうな……。