御曹司さまの言いなりなんてっ!

 すごくシンプルな服なんだけど、発せられる威圧感がすごいんだもの。

 女なら誰でも嗅ぎ分けられる風格の違いが、このドレスから感じられる。

 こんな状況ではあるけれど、やっぱり私も女だから心がふわふわ華やいでしまった。

 ただ、服と自分が、見事に釣り合っていないのが非常に悲しい……。


「お嬢様、よろしいでしょうか?」

「あ、はい。大丈夫です」


 完全に衣装負けしている自分の姿に嫌気がさしていたら、カーテンがゆっくりと開けられた。

 恥ずかしくて俯く私の姿を、応接コーナーの部長と牧村さんが真面目な顔で凝視している。

 ノースリーブの女性が明るい声でお世辞を言ってくれた。


「お似合いですよ。とても可愛らしくていらっしゃいます」

「ちょっと若すぎないか?」

「そうですね。全体的に受ける印象が幼いようですね」

「次、頼む」


 ノースリーブの女性が頷いて、隣に控えていたスーツの女性に目配せする。

 その人が持ってきてくれた別の衣装を受け取って、私はまたカーテンの奥で着替えた。

 今度の衣装は、ヒザ丈のVネックのドレス。

 涼しげな水色と白の衣装で、腰から下のシフォンが綺麗なドレープをつくっている。

 胸のラインに沿うような、波しぶきを模したラインストーンがとても綺麗だ。


「胸元の色気が余計だな。次」


 なかなか部長のお気に召さず、私は次々と着替えさせられる。

 まるで着せ替え人形のような扱いに、顔には出さないけれど私は正直腹が立っていた。
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