御曹司さまの言いなりなんてっ!

 正確に言えば、それは別に天からの声でもなんでもなくて、あたしを上から見下ろしているだけなんだけど。

 でもあたしにとってその声は、まさに天使か救世主の声と同等だった。

 涙ぐんでしまうほどに嬉しい。熱中症のせいで体が渇いてるから涙も出ないんだけど。


「しっかりしろ! 大丈夫か!?」


 見ればあたしの救世主様は、どうやら同い年くらいの男子高校生らしい。

 あたしは「熱中症みたいです」って答えようとしたけど、激しい動悸と強い眩暈と混乱のせいでうまく喋れない。

 それでもウァウァと口籠りながら、懸命に目力で訴えた。


 大丈夫じゃありません。大丈夫だったらそもそも地面に倒れていません。

 だからお願い、早く救急車呼んでください。


「待ってろ! いま救急車呼んでやるから!」


 救世主様とあたしの気持ちは、以心伝心だった。

 彼はあたしの危険な状況を迅速に理解して、自分のスマホを胸ポケットから取り出し、119に連絡してくれたらしい。

 スマホを口元に当てて、颯爽と叫んだ言葉は……。


「もしもし、女の子が路上で襲われて倒れています!」


 …………誰が!?

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