御曹司さまの言いなりなんてっ!

 ベースメイクもアイメイクもリップも、何種類もの色を使って緻密に塗り重ねていく。

 ある個所はボカして、別の場所は強調して、メリハリをつけて。

 そして出来上がったメイクはとても自然で、生き生きとした愛らしさに溢れていた。

 いつもの私とは別人の顔。驚くことに、輪郭や目鼻立ちの高低差からして違う。

 これがプロの技なのね! 圧巻!

 心底から感心したけれど、マモルさん自身は出来あがりが少々不満らしい。

 
「パーティーメイクにしては、やっぱりちょっと地味かしらねえ」

「そんなことないです! とても素敵です!」

「あら、そおぉぉ? うふ、じゃあ次はブローするわよ」


 セミロングの髪はあっという間にブロッキングされ、スタイリング剤が吹き付けられて、ドライヤーとヘアブラシでテキパキとブローされた。


「本当ならアップにしたいんだけど、あなたの恋人から『ナチュラルストレートで』ってご要望があったのよ」

「え? 恋人?」

「あ、動かないで」


 思わず振り返りそうになった私の頭を、マモルさんが慌てて手で押さえた。

 恋人って誰? 自慢じゃないけど私、恋人なんてここ一年以上、お目見えしていないんですけど。

 ひょっとして部長のこと勘違いしてるのかしら?


「うらやましいわあ。あんな素敵な男性が恋人だなんて。わたし、嫉妬しちゃうわ」

「あの、違います。一之瀬部長は上司なんです。私はただの部下です」

「んまあ、なに言ってるの? ただの部下に、ここまでする物好きなんていないわよ」

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