御曹司さまの言いなりなんてっ!
社長夫人は口元に手を当て、軽やかに笑い声をたてる。
「もう誰の責任とか、そんな話はお仕舞いにしましょうね? ……ところで」
綺麗に手入れされた指先を頬に当て、夫人はニッコリ微笑みながらクィと首を動かした。
「そちらのお嬢さんは、どちら様?」
私はギクッとしてしまい、ヘビに睨まれたカエルのように、内心ダラダラ冷や汗を流す。
社長や弟さんも私のことを怪訝そうな目で見ているし、社長一家の無言の視線にさらされて、どう対処すればいいのか分からない。
「は、初めまして。遠山成実です。あの、私は……」
とりあえず名前だけは名乗ったけれど、この後はなにを言えばいいのやら。
なんで自分がこの場所にいるのか、自分でもよく理解できていないのに、他人に説明なんてできっこないもの。
ひとまず、新入社員ですって言っておけばいいかしら?
いやいや、まだ私は正式採用されたわけじゃないんだった。
お宅の息子さんに強引に連れてこられました。って?
いやいやいやいや! 事実だけれど、それはパス!
「彼女は、私のプロジェクトのチームに参加した社員です」
口籠りながらオドオドしていたら、横から部長が助け舟を出してくれた。
するとまた弟さんが、片眉を吊り上げながら部長に突っかかる。