御曹司さまの言いなりなんてっ!
「なんで兄より、弟の方が役職が上なんですか!? しかも専務と部長って格差あり過ぎでしょ!?」
「遠山さん、声が大きいです」
「ひょっとして、まだ他に兄弟がいるんですか? 一之瀬家の家長制度って、末弟が最高位で、年が上になるほどランクが下がるとか!?」
「ご兄弟はふたりだけです。それに、そんな特殊な家長制度はありません」
「じゃあ部長って、もしかして養子で血が繋がってないとか!?」
「血は繋がってますよ。半分」
「……え?」
「いずれ遠山さんの耳にも入るでしょうから、いま私が話しても問題ないでしょう」
牧村さんはそう言って目を閉じ、ふぅっと大きく息を吐いた。
そして素早く周囲の様子を伺いながら私に耳打ちする。
「部長は、亡くなった先妻の子なんです。今の奥様は後妻なんですよ」
「…………」
「いまの奥様が産んだ子は、弟の直一郎さんだけです」
「じゃあ……今の社長夫妻両方の血を受け継いでいるのは、弟さんだけ?」
「はい。先妻が亡くなって間もなく、奥様が後妻として一之瀬家に嫁がれたそうです。当時まだ幼かった部長は、なかなか継母に馴染めなかったようで」
「そりゃあ無理もないですよ。だって子どもですもん」
「だいぶ深刻にモメたようなんです。それで部長は母方の田舎に預けられて、かなり大きくなるまでそちらで過ごしたそうです」
「なにそれ! 先妻の子が自分に懐かないからって、厄介払いしたんですか!?」
私はつい大声を上げてしまって、慌てて口を両手で押さえた。