御曹司さまの言いなりなんてっ!

 そしてソロソロと周囲に気を配りつつ、小声で牧村さんに話しかける。


「社長は何してたんですか? 父親なのに」

「奥様のご実家は、大層ご立派な家柄なんです。代々政治家を輩出してきた名門で、華族に連なるお家柄だそうで」

「……奥様と、その背後に控えている勢力に逆らえなかったんですね」


 分かる。見るからに押しの弱そうなタイプだもの。社長って。

 自分が先陣切ってグイグイ意思決定を下すより、常に控え目に一歩下がってる副社長タイプだわ。

 失礼ながら、大企業の社長室に座っているより、犬連れて近所の散歩に出てた方がよっぽど似合ってそうだもの。


 あの家族の間に漂っている、微妙に歪んだ空気がこれで腑に落ちた。

 つまり部長は母親と弟から、継子イジメをされているってことなのね?

 それで納得できた。どうも変だと思ったのよ。あの社長夫人の態度。


 表面上は、さもおっとりしている優しいお母様って顔しているけど。

 部長への言葉や態度の端々に、ヘビのような冷たい毒が滲み出ているのを私はしっかり感じた。
 
 世間知らずな上流婦人達なら、あの優しげな笑顔と言葉を鵜呑みにするかもしれないけど、どっこい世間の垢も綻びも見てきた一般庶民には通用しない。


「そんな母親の態度をずっと見て育った結果が、ああいう弟の一丁上がりってことなんですね?」

「奥様にしてみれば、社長と社長夫人両方の血を継いでいる直一郎さんが後を継ぐのが、当然なわけです」

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