御曹司さまの言いなりなんてっ!
反射的に顔を上げると、部長が私を包み込むような優しい笑顔で見つめている。
「これでもう、専務にも誰にも文句を言わせない。お前と一緒に仕事ができるんだ。……良かった」
たまらず私の心臓が、キュンと音をたてた。
人気俳優と肩を並べても遜色ないほど美形な男の、極上の微笑みが目の前にある。
これは……卑怯なほどに強力な武器だ。
それが自分だけに向けられていたとしたら、なおさら威力は強烈。
どんな鉄壁の防御壁であっても、たちまち無力化してしまいそうよ……。
「……おや、私はすっかり忘れ去られてしまったかな?」
頬を染めてポーッと部長を見つめている私の耳に、会長の声が聞こえてきた。
我に返って思わず周囲を見回すと、会長や牧村さんや付き人さんの注目を浴びてしまっている。
恥ずかしさのあまり私の顔はますます赤くなり、全身がカァッと火照って、体中の汗腺から一気に汗が噴き出てしまった。
は、恥ずかしい! もう挨拶も済んだことだし、また何か失態をさらす前にさっさと撤退しよう!
「ははは……。いやいや、実に可愛らしいお嬢さんだね。さあ直哉、いつまでも突っ立っていないで座りなさい」
「はい。お祖父様」