御曹司さまの言いなりなんてっ!

「なんだ。ただの熱中症かよ」


 彼の白けたような声が聞こえて、痛む頭にカッと血がのぼった。

 “ただの”だとぉーー!?

 あんた今どき、熱中症の怖さも知らないの!?


「すみません、ただの熱中症らしいです。はい、意識はあります。はい、ええと場所は……」


 ここの場所を相手に伝えた彼は電話を切って、スマホを胸ポケットにしまいながら、ヤレヤレと息を吐いた。


「おどかすなよ。人騒がせなやつだなぁ、お前」


 どっちがよ!

 必要以上に騒がしたのも、おどかしたのもあんたでしょ!


「とりあえず救急車が来るまで、日陰に移動してろとさ。動けるか?」


 動けるわけないでしょ!

 だから救急車呼んでるんじゃないの!


「無理か? じゃあ俺が動かしてやるから」


 彼はそう言うなり、倒れているあたしの腋の下にグッと手を入れた。

 そしてそのまま力任せにズルズルと、あたしの体を近くの家の日陰まで引きずっていく。

 お姫様抱っこしろとは言わないけど、もうちょっと丁寧に扱ってくれてもいいのに。

 あたし急病人なのよ?


「これでよし。次は水分補給だな」


 ファスナーを開けるような音がして、視界の端に、彼が自分のバッグからペットボトルを取り出したのが見えた。


「ホラ飲めよ。俺が口つけたヤツだけど、この際ガマンしろ」


 そう言って蓋を開け、あたしにグィッとペットボトルを突き出した。

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