御曹司さまの言いなりなんてっ!

 ホラと突き出されても、まともに手が動かないんだから受け取れるはずもない。

 唸り声をあげながら身じろぎしていると、彼があたしの口にボトルの口を押し当て、一気にグッと傾けた。

 けれどお互いのタイミングが合わず、液体はダラダラ零れてシャツを濡らし、あたしはゲホゲホ咳き込んでしまった。


「下手くそだな。ちゃんと飲めよ」


 彼は文句をいいながら、もう一度ペットボトルを傾ける。

 でもまたタイミングと角度がズレて飲めなかった。

 どうもこの人とあたしは、とことん相性が悪いらしい。

 さっきは以心伝心って思ったのに。

 
 ほんの少し咳き込んだだけなのに、それだけで余力が奪われてしまって、自分と世界がグラグラしている。

 なんだか頭もボーッとなって、視界がぼんやり薄暗くなっていってる気がする。

 これって意識障害を起こしかけているの?


「おい。聞こえてるかおい。お前、どんどん顔色悪くなってるぞ?」


 彼の焦ったような声が遠くに聞こえる。

 あたしは向こう側に引っ張られそうな自分の意識を、懸命にこっち側へ戻そうとしていた。


「飲めよ。ほら飲めって。頑張れ」


 あぁ、でももう、ダメかも……。

 お母さぁん、お父さぁん……。


 そう思った瞬間。

 あたしは、彼にキスされていた。

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