御曹司さまの言いなりなんてっ!
「おや、成実ちゃん! ここにいたのかね!?」
……は? な、成実ちゃん?
会長がいきなり私を“ちゃん付け”しながら、嬉しそうに近づいてくる。
私自身はもちろんのこと、皆が呆気にとられた顔になった。
目を丸くしている社長夫人と専務の脇をすり抜け、会長は真っ先に私の目の前に立ち、私の手を取る。
「皆さん、この子はうちの社員の遠山成実です。うちの直哉の御眼鏡にかなった期待の新人なんですよ。ねえ成実ちゃん?」
さも親しげに私に話しかけ、そして上機嫌で周囲の人々に私の紹介をし始める。
「うん、実に良い子だ。私もこの子には一目惚れですよ。さすがうちの直哉は人を見る目がある。ねえ、そう思いませんか皆さん?」
会長にそう問いかけられた招待客達は、お互いの顔を素早く見合わせた。
そして瞬時にニコニコ笑顔に豹変して、口々に私と部長を称賛し始める。
「いやあ、会長の仰る通りです。このお嬢さんは実に素晴らしい」
「さすがは会長のお孫さんだ。人材を見極める能力の高さは、祖父譲りですな」
「これで会長悲願のプロジェクトは成功したも同然ですね」
やんや、やんやの大喝采。
よくは分からないが、会長が“ちゃん付け”するほどお気に入りの相手なんだから、とりあえず褒めておくに越したことはない。
長い物には巻かれろ、を迅速に実行した皆さんのおかげで、この場の空気が一変した。