御曹司さまの言いなりなんてっ!
「皆さんにそう言っていただけるとは、ありがたいことです。なあ、直一郎?」
「……ふぁ?」
当然、この展開がおもしろくなくて仏頂面をしていた専務は、突然話を振られてビックリしたように間の抜けた声を出した。
「お前が統括しているプロジェクトは順調に進んで、こうして皆さんに評価もしていただいている。お前は実に立派だ。私も鼻が高いよ」
「あ……ありがとうございます」
「富美子(とみこ)さんも、息子と孫達をしっかり支えてくれている。ねえ皆さん、うちの嫁は私の息子にはもったいないほど、よくできた女性なんですよ」
「まあ、お義父様。そんなこと嫁として、母として当然の務めですわ」
「嬉しいねえ。私は本当によい家族に恵まれたよ」
衆人の前でベタ褒めされた社長夫人と専務が、機嫌よく胸を張る。
みんなが笑顔になって穏やかな笑い声が満ち、張りつめた糸のように緊迫していた空気が、あっという間に収束した。
……さすがは会長。一代で大企業を興した人物。
部長と私の立場を救って、そのうえ社長夫人と専務の面目も保って、一触即発の事態を見事に回避させた。
ここでヘタに部長に肩入れすれば、夫人と専務の神経を逆撫でして、更なる事態の悪化を招きかねない。
あくまでも中立の立場を貫きながら、うまく緩衝材の役割を果たしてくれているんだ。
「ちょっと喉が渇いたねえ。何か飲みたいね」
「お義父様、あちらに飲み物がございますわ。社長もお義父様を待っておりますの」
「おお、そうかね。さあ、みなさんもご一緒にどうぞ」