御曹司さまの言いなりなんてっ!

 会長がこの場の全員を誘導する形で、私達から離れていく。

 トラブルの種を部長から引き離してくれたんだ。

 部長が、会長の少し丸い背中を感謝のこもった目で見送っている。

 そんな部長と会長の背中を見比べながら、私は心の奥がほんのりと温かくなった。


「部長、遠山さん。よろしければお飲み物をどうぞ」


 いつの間にか牧村さんが両手にシャンパングラスを持って、部長と私に差し出してくれた。

 おお、牧村さんグッドタイミングです。

「ありがとう牧村」

 すっかり落ち着いた表情になった部長がお礼を言って受け取る。

 ホッとして乾杯したい気分だった私も、ありがたくグラスを受け取った。


「会長と招待客の皆さまは、これからしばらくは社長達が独り占めをなさるでしょう。この間に少し休まれてはいかがですか?」

「そうだな。そうしようか」

「おふたりに、なにか軽くつまむ物を用意してまいります」

「頼む。遠山、おいで」


 部長が私の背中に手を回して、壁際の大きな窓辺へと誘った。

 中庭に張り出したテラスの出窓に、アジアンテイストでお洒落な籐製のテーブルセットが置かれている。

 私と部長は、その席に向かい合って座った。


 窓の向こうには、ライトアップされた美しい日本庭園が広がっている。

 ほのかな照明と、あちこちに設置されたキャンドルの慎ましやかな灯りが、夜の黒色と地面の緑色を朧に照らして、この上なく幻想的だ。
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