御曹司さまの言いなりなんてっ!

 そんな風にしつこく追及されて、私は渋々白状した。

 まあ、教えたところでどうせ部長には、なんのことやら意味が分からないだろうし。


「金さん、です」

「……きんさん?」

「だから、金さんです」

「金……? あっ!」


 怪訝そうだった部長の顔がパッと変化した。


「『遠山』! ひょっとして、『遠山の金さん』か!?」

「なんでそれが通じるんですか!? 部長の年代で!」


 予想に反して大正解されてしまって、私はつい大声を出した。

『遠山の金さん』とは、知る人ぞ知る時代劇ドラマの金字塔。

 セレブなお奉行様の『金さん』が、事件が起こると潜入捜査して真相を解明し、公正な裁きを行って弱き者を救うという、勧善懲悪ドラマの鉄板だ。


 ドラマのクライマックスで金さんが罪人どもに、『この桜吹雪が見えねえのか!』と切る威勢の良い啖呵と、肩の桜吹雪のイレズミが超有名。

 子どもの頃、たまたまこの時代劇を見たらしいクラスメイトが、私の遠山という苗字とこの性格に引っかけて、『遠山の金さん』というあだ名をつけた。


「なんで部長が知ってるんですか? 私はお祖母ちゃん子だったから、付き合って毎週欠かさず見てましたけど」

「俺はずっと母方のジジババに育てられたんだぞ? 遠山の金さんに限らず、有名どころの時代劇タイトルは完全制覇してる」

「お、お見それしました……」

「なるほどね、金さんか。ふうん、遠山の金さんねえ」

「…………」

「…………プッ」

「笑わないで下さい! 結構本気でトラウマなんですから!」

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