御曹司さまの言いなりなんてっ!
「そうなんですか? サッパリして飲みやすいですからね。林檎味って」
「…………」
「どうかしたんですか?」
「……いや、なんでもない」
部長は目をパチパチさせて、なんだか肩透かしを食らったような、気の抜けた表情をした。
なに? 私、なにか変なこと言ったかしら?
飲みやすくて美味しいって褒めたつもりなんだけど?
キョトンとしている私に向かって、部長は軽く咳払いをしながら改まった口調で言った。
「この後は接待が続くことになるから、お前は頃合いを見て帰れ」
「え? 私もご一緒します」
「遅くなるぞ? 今日は疲れただろうから帰っていい」
「いえ。私も部長とご一緒します」
部長ひとりで接待なんかに参加したら、また社長夫人と専務にイジメられてしまうかもしれない。
そう思った私の考えを読んだのか、部長がフッと微笑んだ。
「そう心配するなよ。俺は慣れているから」
「慣れているってことが、すでに問題なんです」
「入社初日のお前を、接待で引きずり回すわけにはいかない。いいから帰れ」
「でも……」
「いいから。……ありがとうな」