ねがい
早く流そうとすればするほど気だけが焦って、どこに泡が残っているのかも分からない。











ガタンッ。




カタッ。


カタッ。










音が何度も聞こえる。


早く浴室を出ないと……幽霊が湯船から出て来てしまう!


一刻も早く目を開けたいのに、泡がまだ……。










「あーっ!もう良い!泡が残ってたって!」


髪をそのままに、顔にシャワーのお湯を当て、手を目で拭い、何とか目を開けた。


でも……。







湯船のふたは私が浴室に入った時のままで、変化は見られなかったのだ。


空耳……だったのかな?


それにしてははっきりと音が聞こえような。


まあ、私の勘違いならそれで良いか。


チラリとふたを開けて中を確認しても、お湯以外には何もない。


今日のお湯は透き通った緑色で、底まで見えているから中に何かがいるというわけじゃない。


ホッと安心して、ふたを閉めた私は、再び髪に付着した泡を洗い流そうとお湯を浴びた。











ガタンッ。











目を閉じた途端、また聞こえたふたの音。


そっと目を開けると……鏡に映った湯船から、ふたを押し上げて出てこようとする白い手が見えたのだ。
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