ねがい
慌てて振り返って見ても、ふたは微動だにしていない。


もう一度鏡を見ても、白い手なんかなくて。


温かいお湯を浴びているのに、背筋がゾクゾクする。


泡も流したし、湯船に浸からずに上がってしまった方が良い。


温まりたいけど、これ以上ここにいるとまずい気がするから。


そう考えて、すぐさま浴室を出た私は、バスタオルで身体の水気を拭き取り、下着を身に付けてパジャマを手に取った。


すると……。












ガタンッ!


カタカタカタカタ……。










湯船のふたが開いたのだ。


さらに、ザバーッと、何者かが湯船から出たような音。


な、何よ……何なのよこれ!


誰かがそこにいる!


良くは見えないけど、ガラス越しに人影がある事だけは分かる。


私が浸かるのを、湯船の中で待っていたの?


見た時は誰もいなかったのに!


パジャマを掴んで、転がるように脱衣所を出て、泣きそうになりながらリビングに飛び込むと、それを見たお母さんが驚きの声を上げた。


「な、菜々ちゃん!何なのその格好は!ちゃんとパジャマを着てから出なさい!」


そんな事言ってる場合じゃないのに!


安心出来る家に幽霊が出るなんて、私はどうすれば良いの!?
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