ねがい
五限目、六限目と終わり、私は何日か振りに授業に集中出来た事を嬉しく感じた。


儀式には失敗したけど、穏やかな日。


何もない事が、こんなに幸せだとは思わなかった。


このまま、命を失う事なくいられたら……良いんだけどな。


教室の掃除をしながら、くすぶる恐怖が少しずつ大きくなっている事を感じていた。


車のライトが点いていたという事は、辺りがどうだったのかは覚えていないけど、きっと暗い時間だ。


これから夕方になり、夜になる。


今日は死なないかもしれないけど、明日は死ぬかもしれない。


そんな恐怖を。


ぼんやりしたまま掃除は終わり、南部君も日直の仕事を終わらせて、いつでも帰れる時間。


「お待たせ。じゃあ、お見舞いに行こうか」


「うん。今日は会えるかな、彩乃に」


病院に行っても、まだ集中治療室に入っているのなら会えない。


こればかりは、私達がどうにかしたくても出来るものじゃない。


教室を出て、生徒玄関に向かう間に、私が見た夢の内容を南部君に話した。


幸村さんが木村さんのせいで死んだ事、馬場君との約束を守れなかった事。


そして、生徒玄関の前に到着して、どこで幸村さんが力尽きたかを。


その場所で私は、自然と手を合わせた。
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