ねがい
グッと力を込め、幽霊の腕が弾かれて……一段高い歩道から足を踏み外して車道に倒れ込む幽霊。


やった……きっとこれで、私が幽霊に殺される事はなくなるんだ。


「早く……早く消えてよっ!私につきまとわないで!!」


と、私が幽霊に向かって叫んだ時だった。










ファーーーン!!という、甲高いクラクションの音と、ブレーキ音が聞こえた。










「じゅ、潤!!」









えっ?


向井さんは何を言っているの?


私の隣で、幽霊に手を伸ばして。


見えないんじゃないの?


それを考えると、トラックの運転手もどうしてクラクションやブレーキを?


見えてないはずじゃないの?


私の周りの時間全てが、ゆっくりと流れているようで。


向井さんから幽霊に視線を向けると……。











車道で上体を起こし、悲しげな表情で私を見ていたのは……南部君だった。


「な、菜々……」


小さく呟いたその言葉が私の耳に届いた瞬間。











ドンッ!!と、激しい音が辺りに響き渡り、私の目の前で、南部君の姿は消えた。


「う、うわあああああっ!!じゅ、潤!!嘘だ、嘘だろっ!!」


何が起こったのか……分からなかった。
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