ねがい
……誰かに見られてるような気がする。


どこから……と言うよりは、色んな所から。


階段の下、上、横の壁からもそんな視線を感じる。


「やめてよ……まだ音楽室にも到着していないのに」


気のせいだと思いたい。


私が今からおまじないをしようとしているから、必要以上に怯えているのだと。


一歩、また一歩と階段を上るたび、背筋を冷たい手で撫でられているようで、身震いが止まらない。


こんな状態で、本当に彩乃や弘志さんは幽霊に話し続けたの?


ここまで来て何だけど……私は自信が持てない。


彩乃を助けたいという想いがなければ、今すぐにでも引き返したいと思うくらいだ。


それでも、何とか到着した三階。


後一分で音楽室の前に行かなきゃならないけど、十分間に合う時間だ。


廊下に出て、突き当たりにある音楽室に向かって歩いていると、窓に映る自分の姿に目が行った。


やだなあ。


こんな事をしてるのに、自分の姿が映るなんて。


さっきの見られてる感覚は、気のせいで済むかもしれないけど、もしも何か見てしまったらと考えると、気のせいでは済まないから。


慌てて視線を音楽室の方に戻した時。


私は見てしまった。


音楽室の前で、私に背を向けて立つ人を。
< 49 / 265 >

この作品をシェア

pagetop