ねがい
身体を洗い、泡を流して、湯船に浸かった。


おかしな事はあれっきりだったし、少しとはいえ、幽霊に慣れている自分がいる。


口まで乳白色のお湯に入って、そんな事を考えていた。


おまじないをするまでは、幽霊なんて信じてなかったし、怖くてたまらなかったのに、会話をした事で、感じる恐怖が薄れているような。


私は逆にそれが怖い。


彩乃とは違って、失敗したらどうなるかという事を知ってしまったから。


きっと失敗した人達は、幽霊に対する耐性がついてしまって、これなら大丈夫と二回目に挑んだんだろうな。


そして……結果は失敗。


私だってそう思ってしまうし、実社会でも良くある事だ。


話をした事がなくて、恐いなと思っていた人が話してみると良い人で、恐くなくなったとか。


幽霊に対しても同じ感情を抱いてしまえば、それは幽霊にとっては思うつぼ。


生徒玄関にいた幽霊みたいに、次に来るのを待っているんだ。


ブクブクと口から空気を吐き、あぶくを作って。


そろそろ上がろうかなと、顔を上げた時だった。













ボコッ。











ひときわ大きな泡が、私の顔の前で弾けたのだ。


顔を上げているから、泡なんて出るはずがないのに……。
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