ねがい
何だろう……何かがいつもとは違う。


おなじないなんてやったから?


幽霊を見たから?


今までは幽霊なんて無縁だったのに、開いてはいけない扉を開いたような気がする。


「ダメだ、もう上がらなきゃ……」


逃げるように風呂から上がろうとした私は、その判断が少し遅かったと気付いた。










湯船の縁に置いた腕を……乳白色のお湯の中から伸びた別の手が掴んでいたのだ。










「い、いやああぁぁぁっ!!」









何がどうなってるの!?


まさか、鏡に見えた黒い球体は誰かの頭で、この湯船の中にいたって事!?


ありえない!


この湯船には二人が入れるようなスペースはないし、触れもしなかったのに!


驚いて、払い除けるように腕を上げると……私を掴んでいた手は、パシャッという音を立てて液体に変わり、お湯に混じったのだ。


「な、何よ……今の……」


確かに手に見えたんだけど……勢い良く腕を上げたから、お湯が手に見えただけなのかな。


どちらにしても、早くここから離れたい。


湯船の栓を抜いて、浴室から出た私は、バスタオルで髪の水気を拭いた。


ある程度身体の水気を拭き取ったら、少しくらい濡れてても部屋に戻りたいのに。
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