ねがい
見た瞬間、忘れていたゾワゾワした感覚が背筋を撫でる。


呼吸も荒くなり、心臓が激しく鼓動するのを、身体全体で感じた。


窓から射し込む光が、その人物を透過して、床には影すら映っていない。


うつむいたまま私に背を向けて、壁を指差しているのは……音楽室の前にいた幽霊だった。


「な、なんで……私、今日はやってない……」


そんな事を言いたいわけじゃない。


どうして私の部屋にいるの?


昨日見たのは夢じゃなかったの?


間違いなく夢だったのに、どうしてここにいるの?


聞きたい事はいっぱいあるのに声が出ない。


怖くて、不安で……。


微動だにしない幽霊は、私の言葉に何も返さずに、ただ壁を指差しているだけ。


まさか自分の部屋に幽霊が現れるとは思っていなかったから、怖くてたまらない。


それでも、なんとか動く手で、壁に付いている照明のスイッチに手を伸ばした。











パチッ。










スイッチをオンにすると、部屋の中が蛍光灯の光で照らし出されて……。


幽霊は、光に溶けるように消えたのだ。


でも、だからと言ってこの部屋にいたいとは思えない。


荷物を部屋の中に放り投げ、パジャマを取ると、私は慌てて一階に下りた。
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