すでに恋は始まっていた
「じゃあ日菜って呼ぶことにする」


名前が知れたのが嬉しいのかニコッと笑った。


「いや、それは別にいいけど…私は疾斗と付き合う気はないから!」


「お!さっそく名前で呼んでくれてるじゃないか!まずは友達からな」


私の言葉を完全スルー。


どれだけ言っても聞いてくれる様子はない。


でも一応友達からっていうことになったし…友達なら別にいいかな。


付き合うのはごめんだけど。


「………わかった。じゃあ友達ね。だけど私は疾斗を好きになるつもり一切ないから」


勘違いされちゃ困るか真剣な顔ではっきり言う。


だけどそれすらも聞いていないみたい。


腕時計を見て「やっべ」って呟く声が聞こえた。


「悪い、この後予定があるんだ。じゃあな!日菜。絶対俺のこと好きにさせてやるよ」


(だから絶対ならないって言ってるのに…)


この人には都合のいいことしか聞こえないみたい。


(もう何を言っても無駄だね…)


疾斗が自信満々の顔でウインクをして走って行くと、どこからか吹いてきた爽やかな風が私の髪を揺らした。


(室内なのに…風?)

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