すでに恋は始まっていた
「この世界では、思い浮かべたみんなは全部作り物なんだ。それでいいの?偽物のみんなで満足?」


「いや!そんなの絶対にいや!」


(作り物のみんななんて意味ないよ!)


「そうだよね」


「…帰らなくちゃ。私、帰らなくちゃ!このままじゃ、偽物の笑顔を見るだけじゃない…現実のみんなの笑顔も奪っちゃう気がする…」


しっかりとした目でカーネーション君を見た。


(私は…現実に戻らなくちゃいけない)


私の意思がはっきりしたからか、カーネーション君は安心したように笑った。


「現実の世界はいいことだけじゃないんだ。辛いことや苦しいこともある。でもね、だからこそ強くなれるし助け合える。そして、仲間がいるんだよ」


(私…帰りたい。みんなに会いたい。お願い!私を、現実の世界へ連れて行って!)


そう願った瞬間、真っ暗な世界が突然光だした。


「眩しっ」


光が強すぎて、目を開けてはいられない。


カーネーション君も光に包まれて見えなくなってきた。


「忘れないで。僕はいつでも君のそばにいる。君の幸せのためにね…」


それが私の聞いた、カーネーション君の最後の言葉だった。

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