思いは記念日にのせて

「えっ、霜田さんと千晴つきあってたの? いつからよ!」

 予想通りの反応を見せる美花さんを後目に茅野くんと高部くんは言葉を失っていた。

「チワワ扱いしてたくせにー」
「いや、今でもチワワ扱い程度しか……いてっ」

 お酒の入った貴文さんが何か余計な事を言いそうだったので慌てて腿をつねってやった。
 変な声をあげる貴文さんを三人が怪訝な表情で見ている。

 まだキスしかしていない、そんな関係。

 その先だって望んでいないわけじゃない。
 わたしには未知の世界だけど貴文さんは知っているはずだ。
 だから身も心も委ねてしまえば西園寺さんとのことも気にならなくなるはず、そう思っていた。

 だからわたしは今週末の八月九日にかけていた。
 その日は語呂合わせからハグの日と言われている。
 ハグ、つまり抱き合ってもいい日だ。

「千晴のコーナー毎月楽しみにしてるよ。読ませる文章書くよね」
「えっ、そう?」
「文章書くの好きなの?」
「いやあ、そういうわけでも……」
「そりゃそうだ。今年の新人の中で小論文がずば抜けてたのが千晴だからな」

 枝豆を口に放り込んでむぐむぐと咀嚼する貴文さんに一斉に視線が向けられた。
 なにそれ、どういうこと?
 肝心の貴文さんは「へ?」と驚きの顔でみんなを見ている。
< 104 / 213 >

この作品をシェア

pagetop