思いは記念日にのせて

「広報部へ引っ張った理由はそれって、片山さんから聞いてない?」
「聞いて、ないです」
「そっか。あの人肝心なこと言わないんだよな。あの若さで課長ってすごいだろ、あの人について行けば間違いないよ」

 少しだけ頬が赤く染まった貴文さんにぽんっと優しく背中を叩かれた。
 なんだか照れくさいようなありがたいような……。
 片山課長がそんなふうに思っていてくれたなんて知らなくて、わたしの頬もかっと熱くなる。今日はお酒飲んでないのにな。 

「千晴よかったね」
「あんなにいやがってたけど、最近いい顔してるもんな」

 美花さんと茅野くんが暖かい笑顔を向けてくれていた。
 そうだ、最初はみんなに当たったりして最悪だった。だけど今はこの仕事が少しずつ楽しくなってきている。

「いいよなあ、自分も早く大きい仕事してぇよ。霜田さん、プロジェクト入れてくれませんか?」
「いくらチーフリーダーでもメンツを増やす権限なんてある訳ないだろ。俺だって最初の一年目は外国の支社との連絡係だったんだ」

 同じ部の貴文さんと高部くんは共通の話題が多いからか二人でしっぽり飲み始めている。
 そんな姿を見てまるで兄弟のよう見えた。

 その日は結局高部くんが貴文さんを離してはくれず、そのまま家へ連れて帰ることになってしまった。
 貴文さんも楽しそうだったししょうがない。
 だけど明日中には帰してくださいね、とこっそり貴文さんに言って「了解」の答えをもらった。
 
 美花さんもいつも以上に酔っていて、うちに泊まると叫びだしたもんだから連れて帰ることにした。
 茅野くんだけがまっすぐ帰って行ったんだけど、なんだか背中が寂しそうに見えたんだよね。
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