思いは記念日にのせて
鼻歌交じりにご機嫌な美花さんと肩を組み、貴文さんも同じように高部くんの肩を抱いて駅前で別れた。
足取りはややふらついていて背の高い美花さんを支えるのは結構辛い。
だけどここで放置するわけにもいかない。
美花さんが右に動くとわたしも右へ引っ張られ、左に揺れるとわたしも揺れてしまう。
「美花さん、ちゃんとっ……歩いてよ」
「へへへ。だって今日は気分よくってさあ」
いつもきちっとしている美花さんから想像できない。
重役の秘書で、西園寺さんに次ぐ社内ナンバーツーの美人だと言われている美花さんがこんなにも酔っぱらうとは思わなくてつい飲ませすぎてしまったかも。
困ったな、貴文さんには大丈夫って言っちゃったけど無事に家につく気がしない。もったいないけどタクシーを拾うか。
「ちはるぅ、いつぞやはごめんね」
「ん?」
「前に『ちは』って呼んでたの、いやだったんだよね。気づかなくってさぁ……」
へへっと申し訳なさそうに笑う美花さんがなにを言っているのか一瞬わからなかったけど、すぐに思い出した。
配属された日のことを言っているんだって。
あの時配属先に納得できなくて管を巻いたわたしはそんなちっぽけなことでみんなに突っかかったんだよね。
今なら愛称で呼んでくれていたんだってわかるのに、あの時はそんな余裕すらなかった。
「ううん、あの時のことはもう。むしろわたしこそ」
「でも、なんかあの時から千晴と腹を割って話せるようになったみたいでうれしかったのも事実なんだよねえ」
「わたしもだよ」
笑いながらぐらりとふらつく美花さんを慌てて抱き留める。