思いは記念日にのせて
意識は鮮明だし反応もいいんだけど、このまま家まで歩くのは危険だからやっぱりタクシーを拾おう。
ガードレールの少し開いたところに立って手を挙げようとした時、その手首を掴まれた。
「よっ」
「悠真!」
なんていいタイミングで。
よく見ると悠真の顔もほんのりと赤く、酔っているんだろうとは思うけど少なくとも美花さんよりはまともだ。
「誰、この美人」
「同期の清川美花さん」
「あら、なにこのイケメン。千晴の知り合いなの?」
「幼馴染……とでも言うのかな?」
ふたりとも本音が出ちゃったんだろう。お互い誉めあってて聞いてるこっちが恥ずかしくなるわ。
しかもわたしには全く関係のないことだしね。
なんだか「どーもどーも」と急に打ち解けあって、結局悠真が美花さんを支えて歩いてくれることになった。とっても助かる。正直肩が痛かったし腰を痛めかねないもん。
真正面を向いて歩く悠真の顔を美花さんが斜めから覗き込むようにしているんだけど、目つきがずいぶんトロンとしてるなあ。
「いや、本当にイケメンよね。あ、そういや今日はハンサムの日じゃなかった?」
「それは八月六日、今日は七日でしょ?」
「なんだ、そのハンサムの日って」
わたしの仕事内容を簡単に説明すると、意外にも悠真の表情が興味津々なものに変化した。
「へー、毎日記念日があるって面白い。ははぁ、だからキスの日かぁ」
「へっ?」
わたしと美花さんの声がハモってしまった。
すっかり忘れていたけどあの日、わたしってば悠真とキスしてたんだよね。
悠真にとっては挨拶程度なのかもしれないけど、わたしにとってはかなり濃厚なものだった。
「あれ、千晴の顔赤いよ」
「えっ、そっ、んなことあるわけないでしょっ」
「……そんなって、何も聞いてないけど?」
赤い顔で首を傾げる美花さんの意識は思ったよりクリアみたいで焦った。
悠真も余計なことを話しだしませんように、と祈るような気持ちでふたりの後をついていく。