思いは記念日にのせて
急に大きい声をあげながらソファにもたれる悠真にびっくりした。
なんなのと思いきやおもむろにソファの横に置かれていたラックから大きなノートみたいなのを取りだしてそれを開く。
よく見るとそれはスケッチブックだった。
テレビボードの横に置かれたペン立てから鉛筆を取りだして、何かを書き始めたようだ。
自分の左腕で支えるようにして置かれたスケッチブックに鉛筆を走らせ、ちらっと上目遣いでこっちを見る悠真の視線にどくんと心臓が跳ねる。
だってなんだかすごく真剣な表情なんだもん。
「……なに?」
「千晴描いてる」
「えっ」
鉛筆の持ち方が普通じゃない、ってか絵を描く人のそれで本当なんだと思った。
だけどすっぴんで髪もバレッタで後ろにまとめて上げているだけのこんな姿を描かれるのは恥ずかしい。
しかもさっき泣いたし瞼腫れてるかもしれない。
立ち上がってスケッチブックを取り上げてやろうと思ったけど、強い視線に阻まれた。
また、真剣な目だ。
悠真が普段絵を描く人なのか、そしてどのくらい描けるのかはわからないけど、この姿を描かれるのはちょっといやだった。
「ねえ、もっとまともな時描いてよ」
「今まともじゃねーんだ」
くすっと笑う悠真。
それでも鉛筆の動きは止まらない。
そういえば悠真に再会したあの日、部屋にカンバスが置かれていたのを見たっけ。
ラフ画なのに赤い線だけやけにくっきり描かれていて不思議な感覚だった。もしかしたらあれも悠真が描いたのかもしれない。
「普通に飲んでていいよ」
「描かれてるのに飲めるわけないでしょ」
「動いてもいいって。そんな真面目に描いてるわけじゃないから」